なでなで、

 なでなでなで、

「よしよぉーし、いいコだねーバクちゃん」
「……」

 ―――パコ、と
 あんまり痛くなさそうな軽い音が室内に響き渡った。







*不安な横顔*









「―――いったーい! 何するのバクちゃん!?」
「それはこっちの台詞だぞ、
「ぃやーっ!! あやまるから……あやまるから、名前でよんでよーっ!」
 先程、唐突に俺の頭を撫でるという奇行に走った幼子――はレポートボードで叩かれた事に怒りながら訴えてきたかと思えば、俺がフルネームで質問を返すと途端に俺に引っ付いて泣きだした。

 ―――あーもー……何なんだか……

 呆れながらも自分に引っ付いて離れない幼子を、俺はとりあえずあやすしかなかった。




 幼子――は戦争孤児である。
 ――とは言うものの、彼女が教団本部で保護されたのは彼女がまだ生まれる前――つまり胎児の頃からになる。
 生憎、彼女の母親は元々身体が弱かったらしく、彼女を生んですぐに他界してしまったらしい。幼すぎたが故に、その事をあまり気にする事無く今日まで過ごしてきた彼女は、一応は『幸福な人間』の部類に入るのだろう。
 母親が居なってすぐ。彼女の対処を如何するかが、本部の全体議会で問われた事があったそうだ。

 『このまま教団で保護するか、何処かの孤児院に入れるか』

 バチカンが運営資金を賄っているとはいえ、大人数を養っている身としては労働力にもならない赤子はお呼びでなかった。
 ――しかし何を思ったのか。当時のアジア支部支部長――俺様の父親がを人目見た途端、

「この子は我が支部で保護する」

 と即断したのだという。
 ウォンの話だと考えあっての行動からだと言うが、その肝心の親父の考えとやらは俺が支部長になった今でも解けぬ謎の一つでもある。
 そういった諸事情から、はアジア支部の子になり現在に至る訳なのだが――――正直言って、俺は未だに彼女の事を理解し切れていない節がある。それが何故かあの少女に負けた気がして、多少悔しかったりする。




 下手くそに抱えていたを一度抱え直すと、俺は自分専用の椅子に座ると自分の膝の上に小さな彼女を乗せ、彼女にとって話しやすい環境を整えてやる。この時周りの視線が此方に集まってきたが、今更気にする事でもないので無視だ無視。
「ったく……では、何故いきなり俺様の頭を撫でるという奇行に突っ走った?」
「え?何?『きこう』って」
「『奇妙な行動』という意味だ。『奇妙』って分かるか?『不思議』って意味だぞ」
 俺様が嫌味ったらしく語彙を説明してやるとは、それぐらい分かる、とでも言いたげな瞳で睨んでくるが、これがまた面白いくらい怖くない。本当に怖い顔を作る努力をしているのかと、時たま聞きたくなるくらい怖くない。
「だって……」
 不機嫌な瞳を斜め下へと泳がせながら彼女の小さな唇が不意に開かれ、

「バクちゃんの横顔、何だか苦しそうで、つらそうで……不安がいっぱーいってかんじがしたの」

 幼稚な言葉で全く的確な所を突いてきた。
 この時ばかりは流石の俺様でも耳が痛かった。
「――……そんな顔、してたのか?」
「してたよ。何ならどんな顔してたのか、にがおえ描いてあげようか?」
「―――いや、遠慮しとく」
 そう言いながら、を安心させる為に彼女の少し癖のついた、長くも短くもない髪をわしゃわしゃと乱雑に撫で回す。すると、暫く黙って撫でられていたは、
「ちょっとまっててね、バクちゃん」
 ――ぴょん、と俺の膝の上から軽やかに飛び降りて何処かへ走り去ってしまった。

 の小さな背がどんどん小さくなっていくのを見つめながら、あんな幼子に自分の心境を悟られた己の未熟さに溜息が出てくる。
 気分を変えて仕事でもしていた方が良さそうだと思い、俺はの幼稚な指摘に多少なりとも感謝しながらデスクに向った。



 十分後―――

「バクちゃーん!

 ―――はいっ!できたよ!」

 が自信満々に俺に広げて見せる泥饅頭――――どの辺が目でどの辺りが顔なのかさえ良く分からない、知性や気品のカケラも無い似顔絵のおかげで、さっきまで彼女に抱いていた感謝の念がガラガラと音を立てて崩れ去っていった。

 その数秒後に展開された俺とのエンドレス鬼ごっこはお互いがバテて倒れるまで続き、二人してフォーに怒られた上にウォンを泣かしてしまった。







【言い訳】


バクちゃんで親子っぽいのが書きたかっただけですよ、ええ!(何か強気。
最近親子ものが大好きすぎてヤヴァイです。
ああ、あと理はマリ×ミランダにツボりましたッ!!


07.11.25 【再うp:10.3】