一番最初にこう思ったんだ

 ああ……何て変な子なんだろう―――って





*oddball*







「――突然の雨、か。流石自然、うん―――大好きだから一曲歌おうか?」
「馬鹿な事言ってないでさっさとシックル達と合流するぞ、クリストファー」

 雨が心地良く降り注がれている真夜中の住宅街。
 静かな街中を目立つ事この上ない二人の若い男達が掛け合いながら歩いていた。

 一人は真っ赤な蝙蝠傘を差し、ガチガチに固まった西洋の中世貴族のような服を着た――赤い眼球に白い瞳と真っ黒な瞳孔、イルカのような犬歯だらけの歯が特徴の二十歳頃の青年。
 もう一人は鮮やかな朱色の番傘を器用に差している、両腕に布をグルグルに巻きつけた、こちらも二十歳頃の東洋人。


「でもさーでもさー。こんな小ぶり過ぎずどしゃ降り過ぎずない空気読んだ雨なんて、そうそうないと僕は思うんだけど」
 貴族服の男――クリストファーは一度スルーされたにも関わらず、なおも歌う事に食いついたまま引き下がろうとしない。
 如何やら、今自分達の真上に降る雨加減の具合がとても気に入ったらしい。
「そんなもの知るか。だいたい雨は空気読まん、読むのは雲の方だ」
「えっ、そうなの!? 何でさ? 如何して?? 教えてよチー」
「ええい面倒臭い―――

 ――っと、すまんクリストファー。少しこの辺で待ってろ」

「如何したの? チー」
 クリストファーは自然とその足を止めた東洋人――チーの視線の先を追いながら訳を尋ねた。
 チーの視線の先にあったのは、それほど大きくもない文房具店。
「……ハッ!まさか歌詞を書く為に―― 「そんな訳ないだろう!! 『のり』だ『のり』!」 ――『のり』?」

 ―――一体何に使うんだよ、チー。

 と言う前に、クリストファーはある事に気付く。そして、あぁ〜、と何とも気の抜けた納得の声をあげた。
 クリストファーはおもむろにチーの番傘の皮部分にあたる一片をつまみ、上下に動かす。すると竹の骨組からそれが外れており、ペラペラとしなやかに紙が揺れ動く。
 ――そう。チーがのりを求めてるのは、そうそうにこの壊れた箇所の応急処置をしたいからに他ならない。
「貴様……分かっているならその箇所をいじるな! もっと酷くなる!」
「ごめんごめん。そっか、じゃあ仕方ないよね、うん。それじゃ…あ、じゃああそこで待ってるよ」
 そうチーに告げながら、クリストファーはしばらく先にある灯の付いていないカフェであろう建物を指差す。店内には入れないだろうが、庇ぐらいはあるだろうという魂胆からだ。
 チーがクリストファーの示している物に気付いた事を確認すると、二人はそれぞれの目的の場所へと移動する。


†・‡・†


 クリストファーがカフェに着くとそこの庇には先客が居た。
 白い布地に桜の花弁が散る着物に身を包んだ、見た目から判断して10歳前後の少女が一人。何故か子猫を仰向けにして抱えたまましゃがんでいた。
 庇の中に居るので濡れてはいないが……こんな真夜中のこんな所に少女が居ていい筈がない。無用心にもほどがある。
 だがそんな所に、クリストファーは興味を持った。

「こんばんは♪」

 ―――少しおどかしてみよう。

 そんな好奇心のもと、クリストファーは未だ雨の中に居るのにも拘らず傘を閉じ、イルカ口をニタリと歪ませて少女に挨拶する。
 声に気付いた少女がこちらに顔を向けた。
 容姿は……それとなりに整ってはいたが、特にコレといった華がない平凡なものだった。
 長くも短くもない赤味を帯びた黒髪に、これまた大きすぎず小さすぎないチョコレートのような茶色い瞳。それから体格の割りに幼い印象を受ける顔立ちから、多分東洋人だろう。
 思いつく特徴と言えばそれくらいの、良い意味でも悪い意味でも、あまり印象の強くない少女だった。
 しかし一度口を開くと…――――

「何だいキミは? 仕事内容が単調過ぎてホラー映画からでも抜け出したかい? ならすぐ近くのティオール劇場に行くと良い。あそこで今上映している映画は全てラブ・ストーリーだ。良かったな、恋愛できるぞ、人間とだがね」

 ――強烈だった。

 クリストファーは二の次が次げず、思わず固まってしまった。
 こんな事態、全くの予想外だった。

「? 如何した怪人(仮)―――……ああ」
 そう良いながら少女は子猫を安全地帯に降ろすと、クリストファーの腕を引っつかんで庇に引き込んだ。しかしそのすぐ後、少女はカフェの入り口のすぐ脇にあった鉄製の階段をトタン、トタンと駆け上がり二階に引っ込んでしまった。


 カフェの庇に取り残された一人と一匹。
 色んな意味で目立つ青年とただの子猫が一緒に居るその光景は、何処かの安っぽい映画のワンシーンのようだった。
「みー、みーぃ!」
「えー? そんな事言われたって……僕は挨拶しただけなんだけど?」
 子猫がクリストファーに向ける苛立った声は何処か批難めいていて、思わずクリストファーは言い訳を口にする。
 子猫に言い訳する青年……一体何処の喜劇だろうか。
 そんな子猫とクリストファーがコントをやっていると、

「……キミ等、何やってるんだい?」
 ふかふかのバスタオルを持って少女が二階から戻ってきた。

「え? いや、この猫ちゃんに何かキミが上に引っ込んじゃったの『お前の所為だろ! 如何してくれんだ!』って感じに言われてる気がしたから……」
「……ふーん、そうなのか。てっきり友達にでもなったのかと思ったんだがね」
 年齢不相応な言葉遣いでしゃべりながら、少女はクリストファーにバスタオルを被せる。如何やらただ単に、クリストファーが体を濡らしている事に対して気にかけていただけのようだった。
 少女は懸命に背伸びをしながら、クリストファーの髪の水滴をバスタオルでふき取っていく。自分でやった方が断然早いし楽なのだが、何故かクリストファーは少女にそれを告げなかった。あんまりにも一所懸命なので、断るタイミングを逃しただけとも言えるが。

 ここでふと、クリストファーは思い出したようにある事を尋ねてみる。
「ねえキミさ……

 ―――僕が怖くないのかい?」

 それは――あまりにも直球過ぎる質問だった。

 クリストファー自身が言うように、彼の容姿は『普通の人間』と呼べるようなモノではなかった。
 赤い眼球。白い瞳と真っ黒な瞳孔。イルカの歯のような犬歯だらけの歯……と、
 ――まさに、絵に描いたような吸血鬼の姿なのだから。
 『普通の人間』ならば彼を一目見れば盛大に驚くか、極力関わらないように距離を取るような行動をするだろう。
 だが……この目の前の少女は何の怯えも迷いも見せず、ただひらすら『普通』にクリストファーに接している。

 まるで――彼が『普通の人間』であるかのように……。

 それがクリストファーには分からなかった。
 クリストファーが少女の行動について頭を悩ましている事など知りもしない当の少女は、クリストファーの頭を拭く作業を終えると、再び子猫を抱きかかえ―― 

「別に。キミは私を驚かそうと挨拶しただけだろう?」

 何ともあっけなく、そして単純明快にそう答えた。
 それがさも――当然とでも言うように。

「――ホントに? とゆうか何で理由知ってるの?」
 少女の答えに対する疑心をクリストファーは微塵も包み隠さず表情に出した。
 あまりの露骨さに、思わず少女は年相応の表情で明るく笑い、子猫は『てめぇ失礼なヤツだなコラ』と非難めいた唸り声を上げる。
「本当だよ。この世の中、キミより変なヤツなんていっぱい居るさ。『人生は小説よりも奇なり』って言葉もあるくらいだ」
「僕を見て平気って事は……やっぱキミって変人?」
「……そうだね、自覚は多少はあるかな。でも他の女の子とかにそれ言っちゃだめだよ」
「何で?」
「きっと、怒って泣いてしまうだろうから」

 ―――キミは泣かないの?

 少女を変人呼ばわりしたにも関わらず、少女は少し大人しめな子供のように笑っただけで、クリストファーを責めたりはしなかった。それどころか今後のアドバイスらしき言葉を伝えるこの始末。
 最早クリストファーの脳内では、少女を『普通』だと定義出来なくなっていた。


「――キミ、さ。此処の二階に住んでるの?」
 暫く言葉を失くしていたクリストファーがポツリと、葉に付いた雫が落ちるような自然体の声音で、今更ながら少女についての質問をする。 
「町医者をしている豪快なおばさんとね」
 突然の質問に身構える事なく、少女もまた、流れるように自然な声音でクリストファーの質問に答える。年齢に不相応な言葉遣いは、若干色あせていた。
「おばさん? 両親は居ないの?」
「いや、健在だよ。NYに居るだろうさ」
「如何してキミは此処に居るのさ、一緒に暮らせば?」

「それは……無理かな」

 ―――如何して?

 そう繋げようと少女の方に首だけ動かすと、少しだけ、少女の顔に陰りが見えた。
 しかしそれも束の間。
 クリストファーが何か言う前に、少女は愛想笑のような薄っぺらい微笑みを作りあげる。
「何やらかしたの?」
「いや特に。しかしあながち間違いとも言えないから仕方ないと思ってる――が」
 好奇心だけで質問してみれば、肩透かしのような返答に、
 ――あ、そこ否定しないんだ。
 と、クリストファーが呆れつつも感心しながら聞いていると、少女がもったいぶったように言葉を区切る。

「聡過ぎる子供はね、両親の愛情を向けられにくいんだよ」

 幼顔の少女には似合わないニヒルな笑みを浮かべ、少女は自業自得だとでも思っているのか、まるで他人事のように一つの結論を語った。
 しかしその表情には、悲劇のヒロインのような悲痛さや同情を誘うようなものは微塵もなく、まるで一つの物語を読み聞かせているような表情だった。

 少女は自身の人生を悲観などしていなかった。
 少女は自身の人生を諦めていなかった。
 少女は自身の人生を否定していなかった。

 ただ――ただ少し、物足りないと感じているだけで―――

 その結論に達する頃には、少女はクリストファーにとって『変な友人』にクラスチェンジしていた。


†・‡・†


 それから暫くも、お互いの身近にある世間話のような事で盛り上がっていると、クリストファーの視界の端にふと赤い何かが入り込んできた。その方向に目を向けると、それはチーの差している番傘だった。

 ―――やば。普通に楽しくて時間忘れてた。

 これから受けるであろうチーの小言を想像してクリストファーは、うへぇ、と心の中で呟いた。
「ごめんよー。名残惜しいけど、僕の相棒の用事が済んだみたいだからそろそろ行かないと」
「そうか…。そういえば……私ももうそろそろ上に戻らないとね」
 心配性なんだ、と少女は言葉を付け足しながら、何時の間にか眠りこけている子猫を抱いたまま二階へと消えようとした。
 その時――

「でも大丈夫、僕達もう友達だから! 友達はまた出会うものだよ!」

 と、クリストファーは歌うように言葉を紡ぎながら、純粋な微笑みを少女に向けた。
 その微笑みを向けられた少女はポカンとした表情をしてから、
「―――私とキミは…………友達なのか?」
「えっ!? ひどっ!!」
 可笑しなものでも見るように笑いを堪えながら、クリストファーが発した歌詞のように綺麗過ぎる言葉の揚げ足を取る。
 クリストファーは少女を批難するが、その顔には笑顔が張り付いていた。

「――
「?」
 突然、少女が一つの単語を言葉にする。
「名前だよ。

 ――友達なら……名前くらいは知っておくものさ」

 ―――ああ、そういえば、まだ名のってなかった。

 会話に集中し過ぎて、普段ならば出会い頭に名乗る筈の名前を名乗っていなかった事に、クリストファーは言われて初めて――今更ながらに気が付いた。
「僕はクリストファー、クリストファー・シャルドレードだよ」
 よろしく、とクリストファーは右手を差し出す。
 差し出された右手に、少女――もまた左手を差し出し、互いに握手をした。


 別れの言葉は、お互いなかった。

 何となく……また、出会う気がしたから―――


「チー、面白い子を見つけたよ。

 それから―――友達が一人増えたんだ」

 チーと合流したクリストファーは開口一番にそう言った。
 それはそれは楽しそうに、楽しそうに、笑ったまま―――







[反省会]


 初書きバッカーノ!夢はクリス。
 クリス大好き過ぎてヤヴァイです。
 てか『ラミア』全員大好きです、やつらもう家族です。
 こんな感じに、ほのぼのほんわか?した話を書いていけたらいいなと思います。
 ……チーが……偽者すぐるOTL

 成田さん大好きだーーーー!!エナミさんも大好きだーーーー!!


2010.4