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その夢の果てに その現実の果てに 己が守るものがあるのなら 全てを賭して 受け入れろ 何故ならお前は 『とがおい』の宿命を背負った子なのだから・・・・・・ 其の壱・帰還〜無言の離別〜 この浮世は、様々な言葉で溢れかえっている。 そして、全てにはだいたい対となるものが存在する。 善と悪。正義と罪。聖人と魔人。天使と悪魔、等々・・・。 例えば、善性がある所に必ず悪性が存在するように、世界や言葉はありとあらゆる対存在で形成・存在している。 しかしながら、正義の定義とは一体何なのであろうか? 同じく、悪の定義とは一体何なのであろうか? 皆人が神の使いを語り、分別をつける為に生まれた一種の道徳概念であるというのに。 道徳とは、人間社会の秩序を存続させる為に、個人で守るものを言う。 その道徳に神聖的なもの、つまりは神々を介入させる事自体が、人々が最初に生み出した傲慢の具現と言えるのではないだろうか? 今此処に一人、その『神聖』が存在している。 だがその『神聖』は人間達にだけは神聖だと認識される事は無い。それどころか、人々はその『神聖』を浅ましく嫌い、疎ましく思う。 『神聖』自身も、己を呪う。憎み傷つけ、貶し嫌う。 その自虐な『神聖』を、人々は蔑みと差別と侮蔑の念を込めて――――、 『咎生い(とがおい)』 ――――そう呼んだ。 †・†・† 此処は日本の何処かに存在する教会兼孤児院。 コンクリート製の真新しい本館棟に隣接された孤児院に、敷地内の広場に幾つか点在する幼児向けの遊具。砂場に置き忘れられた玩具。古びた講堂だけは何故か木造で、形式はキリスト教カトリックによく見られるもの。存外至って一般的なキリスト教営の孤児院である。 ある一人の、三十代前半ほどのシスターが夜間の見回りをしている時。 それは序章の鐘を、離別の唱を、音高らかに響かせる。 「我が右手に青龍の御魂ありけり」 シスターが遊戯室の鍵を閉める。 「我が左手に白虎の御魂ありけり」 シスターが本館棟から外に出た。 「我が背に朱雀の御魂ありけり」 シスターが苦笑しながら、置き忘れられた玩具を拾う。 「我が喉に玄武の御魂ありけり」 シスターが古びた講堂から灯りが漏れているのに気がつく。 「我が心臓に、ニニギの御魂ありけり」 ――――シスターが、講堂の扉を開け放つ。 「・・・・ちゃん・・・・?」 シスターは教会の中から一人の少女の声を聞いた気がした。 †・†・† 『』とは今から五年程前、教会付近の桜林の中で倒れている所を近くを通りかかった老夫婦に発見された少女に付けた名である。 教会に運ばれてきた少女を初めて見た時、私は酷く驚いた。少女の容態が、明らかにおかしかったからだ。 所々裂け焦げている着物。あまり楽観出来るものではない、人為的な外傷・・・。 深く考えている暇などその時には無く、私はすぐさま応急手当をして病院に連れて行った。その時「命に別状はありません」と言っていた担当医の表情が何処か暗かったのをよく覚えている。 退院をしてからは、少女の保護者が見つかるまでの間孤児院で保護する事になった。 個人的な意見を言わせて貰えば、この当時から私は少女を保護者の元に返す事に納得していなかった。 少女が退院する際に、少女の担当医から「『オカルトめいた虐待』を受けていた形跡がある」と聞かされていたからだ。 その辺の事情を詳しく本人から聞くまでは少女を帰す事は絶対に出来ない、と私は密かに心に決めてた。 ところが、何時まで経っても少女の保護者は見つからなかった。それどころか、少女の戸籍すら存在しなかった。 しかし・・・当然といえば当然だったのかもしれない。 少女のあの状態は異常だった。 少なくともただの子供でない事ぐらい、初めて少女を見たときから解りきっていた事だ。もしかしたら少女はこの世の者ではないのかもしれない・・・、とすら思った事もあったほどだ。 しかしながら、此処は教会。神に救いを乞う聖なる家である。 ならば、素性の知れない少女というだけの理由で、孤児院に入れない訳にはいかない。――いや、そうゆう事情を抱えた子供にこそ救いの手を差し伸べねばならない。 それ以前に、私はその少女を特別視していたと思う。 意識はしていなかった。同僚のシスターに言われるまでは。 私は、少女に娘の面影を重ねていたのだ。 死んだ私の娘には藍紫色の髪も、普段隠している真紅の瞳も無かったが、私は少女を自分の娘の再来のように可愛がっっていた。 †・†・† 扉を開けた途端、先程まで灯りが漏れていた講堂から灯りが消える。講堂の中には誰も居らず、月明かりに照らされた室内は異様な光景を来訪者に提示する。 血。血。血。 床という床。壁という壁。天井、椅子、教壇、窓、絨毯。至る所に血で書き綴られた文字が散りばめられている。室内に充満している血生臭い匂いが鼻に纏わりついて離れない。 その所為なのか、彼女は全く気がついていなかったのだ。 己が右腕が、彼女の意を介さず動いていた事に。 やっと彼女が気付いたのは、彼女が明かりを点けようと前に進もうとした時だった。 前に進めない。 何故進めないのか。 少し怯えながら振り返ると、己が右腕は今まさに講堂の扉を閉めようとしていた。少しずつ、小さな音を立てながらではあるが、扉は確実に入り口から侵入している月明かりを狭めていく。 ――嫌な予感がする。 何か大事なものがこの手から零れ落ちていくような・・・ 娘が―――消えてしまった時のように・・・ 彼女は必死に、今にも閉じきってしまいそうな扉を開こうとする。 何故か閉めてはしけないような気がしたから。閉めてしまったら最後、大切なものを失ってしまう気がしたから。だから彼女は必死でそれを食い止める。 けれど――――、 バタン・・・ 無常にも扉は閉まる。 彼女の愛する少女も、それに関する記憶の全てを、彼女から奪い去って。 こうして少女はこの世界からの離脱を果たし、あるべき世界へと帰って行った。 |
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『悲しくも優しい』、『家族の絆』、『成長』、『戦闘』 ――以上がこのお話のコンセプトです(マジか。 つまり、『ほのぼの』と書いて『シリアス』ってルビるのがこのお話です(激しく違う。 本当はハートフルコメディーにしたかったんですけどねぇー・・・(何処か遠い目。 とりあえず、そんな感じに近付くように頑張りたいと思います。 (最新加筆修正:08.9.6) |