Out side story from Black 00 _ Boy meet Gril 2




「――目が覚めまシタか?」
「……」
 薄汚れた子供が目を覚ましたのは、湖から引き揚げてから丸々二時間経った頃だった。
 子供はなんとも時代錯誤な格好をしており、土や水草がこびり付いた小袖を着ていた。おまけに子供の耳は赤黒い毛に覆われた――いわゆる獣耳で、尻には立派な尻尾もあった。
 しかしその事に関して、青年は特に驚いた様子がなかった。むしろ、青年が驚いたのはその瞳だ。
 子供の瞳はこの湖のように虚ろだった。まるで中身がない。それどころか、その存在すら不自然極まりなかった。

 子供は何もしない。ただ”居る”だけ。
 それでやっと、青年は合点がいった。

 ―――ああ……この子が――”無”ナのデスね……

 気づけばそれは、当然の事だった。
 あの空間で生命活動を維持出来ていたのはこの子しかいない。物質の身体を持つ者に限らず、『幻想』と呼ばれる非物質的存在である彼等ですら、此処には居ないのだ。全て死滅してしまって、残り香すら感じさせない。

 何もない場所。
 生き物のいない場所。
 ただ一人が、存在している”だけ”の場所。

 此処は……そういう場所なのだ。

「―――一つ、聞いてモ宜しいデスカ?」
「……」
 子供に反応はない。先程から、晴天とは言えないキレの悪い晴れた空を、ただただボンヤリと眺めているだけだ。
 青年はそんな子供の態度に腹を立てる事なく、というか無視して話を進める。
「貴方ハ――『黒狼』のハズデス。

 ソれが何故――水の加護を受ケテいるのデスカ?」

 青年の瞳を彩るそれは、驚異の色と呼ぶよりも好奇心のそれだった。

 『黒狼』――それは、”破壊”と”力”を具象化させた存在『壊黒』の子孫。分身血族。受け継ぐべき属性は”火”。
 破壊によって世界を正す暴君。『世界』が持つ最終掃討兵器の製造機。それが――『黒狼』の役割だった。
 その『壊黒』の末裔たる『黒狼』の子供に何故――それとは全くの正反対の属性が宿ったのか。青年にはそれが気になった。

「…にぃ…」
「?」
「……」
 ――にぃ、と。
 ただ一言。

 それっきり、子供は何もしゃべらなくなった。



†・‡・†



「―――ソコでただ死んでいるダケなら、付いてきマスカ?」
 青年がそう子供に提案を持ちかけたのは、森に赤色の斜光が差し込み始めた頃だった。
 それでも変わらず、子供は何の反応も見せない。水底のような虚ろな瞳は、光が差し込んで赤みを帯びていた。ただそれだけ。
 全てが無駄な行為。なんの結果にも結びつかない行動。しかし――そんな事は青年にも分かっていた。

 ――ただ、子供のこれからに興味を持っただけ。

「復讐したいトは……思わないのデスカ?」

 ピク――。
 『復讐』という単語に、子供の耳がかすかに動いた。静電気が一瞬走ったかのような微々たる動作だ。しかし―――
 ――これが、言葉以外で初めての反応だった。
「自分にコンナにも理不尽な世界を、不条理な現実ヲ押しつケタ者達が憎くないのデスカ?その運命を呪わないのデスカ?覆そうとは思わないのデスカ?」
「……」
「モシモそんな理不尽ヲ如何にかしたいと言うのナラ、ワタシが何とかしてあげマスヨ?」
「―――」
「タダシ、その場合はワタシがアナタを引き取る事になりマスガ―――いいデスネ?」
 子供は何も言わない。
 肯定も、否定も。
 全ての言葉を飲み込んだままだ。

 青年は子供が否定しても連れ帰るつもりだった。もともと『連れ帰れ』とのご命令なのだから仕方ない。

 ――おそらく、自身の魔法のこやしにされるのだろう――。

 青年の魔法は使い勝手はいいが、何分その対価が生半可ではなかった。
 『人呪わば穴二つ』と言うように、”呪詛”を扱う青年が支払うべき対価はその『結果』。呪う事によって得られる結果こそ、彼が支払わなければならないものなのだ。支払う対価は、工程を省けは省くだけ多くなる。それが青年の魔法の欠点だった。
 子供を人柱にするには気が進まないが――それもこれも、かつて賜った『神命』を果たすため。その為の尊い犠牲となれば、青年は世界中の人間を殺める事も躊躇わない。
 それがこの青年の――己が『神』が為の存在意義なのだ。

「…そうすれば―――消える…?」

「?」
 一瞬、青年には子供が何を言っているのかが分からなかった。当然、答えるべき言葉も見つからず、そのまま硬直してしまった。
 いつの間にか子供の視線が青年に向けられていた。
 子供と青年の視線がぶつかる。
 子供の瞳は相変わらず虚ろで、死の淵しか見つめていなかった。

 それでも――見ているのだ。
 ”虚ろ”と”無”と”死”しか受け付けないだろうその瞳で、精一杯に、確かに今を生きている青年を見ているのだ。自分の抱えるそれらをただ叩きつける事無く、青年自身をその瞳に焼き付けている。

 その姿勢に、その姿に……何故か青年は既視感を感じた。
 何にそれを感じたのかは定かではない。どこでそれを見たのかも分からない。
 それでも――どこかで――見た事があった…。

「……そうすれば、この世界は壊れる?……無くなる?」
 子供の問いは続いていた。
「そう…デスネ。場合によってハ、そういう結果に辿り着くかもしれマセンネ」
 そう答えてから、青年は思った。

 まるで――自分がこれから先にする事を予見しているかのようだと。

「……こんな世界……なくなっちゃえばいいんだ……」
 唇以外何一つ動かさず、子供は無感動に呟いた。
 いや、完璧な無感動では無かったかもしれない。子供の尻尾が緩く逆立っているように見えたからだ。
 青年が、勤めて平静を装って訊ねる。 「――それが、アナタの望む未来デスカ」
「……にぃが居ない世界なんて…『世界』じゃない……」
「―――」
 その子供の言葉に、青年は衝撃を受けた。それは、心臓と脳髄に同時に鉛玉を撃ち込んだかのような、痛みを感じる前に一瞬にして全ての感覚がショートしたような激しいものだった。
 指が動かない。
 足が動かない。
 視線を逸らせない。
 筋肉の一切が動かないくせに、血液だけは五月蠅い音を立てて流れている。
 電気信号がまともに送受信しないくせに、汗腺だけは蛇口が緩んだみたいに背中を中心に絶えず汗を分泌している。
 青年という存在が持つ何もかもが、その行動を沈黙させているのだ。

 ―――この娘は――ワタシの――

 そこまで考えて、青年は考える事を止めた。
 ―――バカバカしい。
 そうかぶりを振って、盛大に肺中の息を吐き出す。脳内の電気信号を正常化させるかのように、いい加減にしろ、と心中で自身の脳共を叱咤した。
 二三繰り返すと、ようやく自身が冷静だと思えるようになった。
 自らを信頼出来るようになってから、青年は先程の会話を思い出したかのように、虚ろな子供に緩い仕草で手を差し伸べる。
「―――さあ、おいでナサイ。その手で破滅を導きたいのナラ」

 ―――……ただし……―――

「選ンデしまった以上は―――戻る事は出来マセン」

 それは見た目通り、神父が紡ぐ教導の言葉であり、
 それでいて……自分自身に言い聞かせているような言葉だった。

 ――その言葉に、その女性のような華奢な掌に、子供は手を伸ばす。
 躊躇わず。
 戸惑わず。
 今までただの一度も微動だにしなかった虚ろの子供が初めて、自らの意思を――その行動で示した。
 示されたものは、到底幼い子供が求めるものではない。
 しかし、その異質さが故に、黒衣の青年はひどく納得したように溜息をついた。それは呆れているのか、はたまた安堵しているのか。彼自身にもよく分からなかった。
 分かったことはただ一つ―――

 子供は『終わり』を求めている。
 自らの手で……『終わり』を築こうとしている。

 それが――子供の願い――


  「――イルヴァレチカ=アデムカディ」
「…?…」
 子供の小さな手を離さずまま、イルヴァレチカは初めて自ら名乗る。
 突然名乗ったイルヴァレチカを、子供は虚ろな瞳を少しだけ大きく見開いて見返した。今思えば、この子供がイルヴァレチカ自身に対して反応したのはこれが初めての事だった。
「ワタシの名前デス。『神』がワタシだけに授けた、ワタシだけの宝。ワタシだけの誇り」
 イルヴァレチカの紫金色の瞳が、真っ直ぐ子供を見つめる。
 それに子供が応えたのかは分からない。ただ―――

「・・・雨音(あまね)・・・。神条(しんじょう)雨音」

 何となく、子供の虚ろが・・・ほんの少しだけ薄れた気がした。



†・‡・†



 神父と出逢った女の子は、神父と共に生まれた森を出て行きました

 全ては、そこに『終わり』があるのだと信じて―――


 ――それが、神父と女の子の出逢った日お話

 8年もむかしのことでした―――




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【言い訳】

 いつでもマイペース自堕落管理人の理です。
 初めての創作小説です。

 ―――なんというグダグださ……ッ!OTL

 明らかに自己満足で閲覧者に優しくない文章。
 ―――あ、何時もの事か(オイ。

 やっぱり元が無いって書くの難しいです。二次も駄文しかかけませんけどね!
 でも個人的にはこれで満足です。修正何度もしたし、実は(笑。

 次回は団長とかも書いてみたいな……と、フラグだけでも立てときます。


(うp:2010.2)