其れは、偶然だったのかもしれない

 其れは、必然だったのかもしれない

 始まりが始まりを呼び、偶然が偶然を呼び込むように・・・

 運命もまた、全く別の運命に共鳴し、絡み合い、結びつき

 新たな運命を築いてしまったのだろうか・・・




其の参・目覚めと邂逅〜真田幸村〜




 暖かい午後の日差しが差し込む上田城下にある武家屋敷のとある縁側で、迷彩模様の忍装束を着た茶髪の男が寝転んでいる。
 男の名は猿飛佐助。噂に名高き『真田十勇士』が誇る長――もとい、武田軍のおかんである。
 前者は当然の事だが、後者の方も近隣諸國では周知の事実。まぁ本人の前でそれを言うと笑顔のまま分身使ってたこ殴りにされそうなんで、誰もそれを告げようとしないだけである。それ以前に彼があまりにも不憫で不憫で言うに言えないという旨もあったりするのだが・・・・・・つまり、ある種の暗黙の了解となっているのである。
 そんなこんなで天性の苦労性を所持している佐助さんは、急を要する仕事も今のところは全く無いため暫く前からこの縁側で一人お茶を啜りながら和んでいた。

「ん〜・・・・気持ちいいなぁ・・・ふぁ「佐助――――ッ!!何処に居るのだ?!非常事態ぞッ!!」っぶッ!!」

 うとうとと眠たげに欠伸をしていたところにこの咆哮である。
 眠気が吹っ飛ぶだけならまだよかったのだが、気を抜いていた所為もあり縁側から落っこちてしまった。
 忍が驚いて縁側から落ちるなんて・・・・阿呆もいいところだ。大将にでも見られたら豪快すぎるほど笑ってくれるだろう。

 ―――ホント、見られなくて良かった。
 
 まぁ何時までも落っこちた体勢のままでは格好がつかないので、とりあえず起き上がってから彼に返事をする。
「旦那ぁー、俺様ならこっちだよぉー」
 返事をしながら、幸村の用件について思考を巡らせる。
 ―――はてさて非常事態とは一体何なのだろうか。
 伊達との戦の話だろうか?それについての話し合いなら、つい先日話し合ったばかりだが―――
 ―――・・・・もしや今の甘味の量に直訴しに来たのか?!なら絶っ対に量増やしてやんない!一日十本(団子で換算)分でも甘くした方なのに。
 しかしながら、その佐助の思考は幸村の次の叫び声に掻き消される事となる。

「わ、童がッ!!ぐったりしててゆすってもゆすっても全く起きんのだ―――ッ!!一体どうすれば良いのだ?!(泣)」
「・・・・・は・・・・・?子供??」


†・†・†


 は体中を襲う気だるさと酷い頭痛で目を覚ました。最悪の目覚めだと、は心中で唸る。
 これに比べれば彼等を受け入れた日の朝の方がまだ辛くなかったな、と身体も起こさないまま、は心中で目覚めの良し悪しを批評し始める。起きてすぐ心に思う疑問やら考えに思考を張り巡らすのは、孤児院に居た頃からの彼女の癖だった。
 暫く下らない事で頭の回転の下準備をしている間に、ぼやけていた目の焦点も合ってきた。
 ――最初に目にしたのは、見慣れぬ天井。
 目線だけで辺りを見渡してみるが、やはり此処は見知らぬ部屋。形式は和で、なかなかに趣のある小綺麗な部屋だった。
 何処ぞの権力者の家なのだろうか?
 自分を拾った相手はどういった人なのだろうかと考えてみると、何故か、シスターの笑顔がぱっと浮かんだ。

 自分に””という名をくれた彼女。
 自分を五年間、実の子のように育ててくれた彼女。

 ―――会いたい―――

 傲慢だと・・・醜いと思う。
 自分から別れ、自分から彼女を切り離したというのに・・・。
 未練など無い様にと・・・彼女から自分に関する記憶の全て奪い去って来たというのに、

 ――――それでも彼女を忘れる事を、この体は、この心は、拒絶していた。

「ごめん・・・・なさい、シスター」
 許されない事だと知っている。
 自分自身がそうなのだとも知っている。
 けど、彼女達には笑っていて欲しい。自分が敬愛する彼女達には、ずっと、笑っていて欲しい。悲しい顔など見たくない。
 だから、今以上の罰を、咎を、自分は背負い続ける事を誓おう。

 母(あるじ)と母(シスター)の為に―――


†・‡・†


 ――ガラッ、
「お?もう目が覚めたのか」
 不意に開けられた障子戸から、全身やけに赤い服装の青年が顔を覗かせながら入ってきた。到底一人では食べきれない量の団子の山を左小脇に抱えて。
 は突然やって来た件の青年を、怪訝な目で見るしかなかった。
 まぁそれは至極当前の事だと思う。服装の色はさておき、年頃の青年がほぼ上半身裸同然の格好で小脇に大量の団子を抱えて婦女子の面前に現れるなどありえようか?
 それ以前には十三歳の少女。思春期真っ只中である。本人は恋愛云々に今のところ全くといっていい程興味が無いが、それでもやはり青年の格好は気になるものだった。


 とりあえずは気にしない(無視する)事にした。
「・・・・・・・お前、誰?」
「目上の者に『お前』とは、口の聞き方がなっておらん童だな。敬語を使わぬと立派な男になれぬと、両親に習っておらんのか?」
 の問いを説教で返すほぼ上半身裸の赤い青年。しかも『立派な』の後に『男』という単語が聞こえてきた時点で、彼女は男だと勘違いされている模様。


 ここでの容姿やら服装やらの説明させてもらうが、彼女自身の容姿はなかなかに端整な方だ。
 白い肌に長い睫毛。目は一重で、十三歳の少女にはあまり似つかない、全体的に大人びた顔立ちをした少女である。
 だからといって身長が高いわけではなく、全国の平均値よりやや高めぐらいだ。
 髪型はショートカットで、髪の色は藍紫。簡単に言うと青紫の明度を一つ二つ下げた感じの色である。
 瞳の色は紅――なのだが、その眼は前髪によって綺麗に隠されている為、全体的な容姿がぼやけてよく分からなっくなっている。しかもの服装が元服前の男子が着る普段着を改良したような着物だったので、良くも悪くも『わりと愛嬌のある男の子』に見えてしまうのだ。
その結果、幸村はの性別を見誤ってしまったのだ。


 は心中「(何だコイツ)」なんて事を思っていた。
 この青年よっぽどの世話焼きなのか、『今の会話を立派な武勲を立てた人が聞いてたら怒られてた』とか『自分もそれで父親にこっぴどく怒られたことがある』とか『お館様はとても素晴らしい御仁だ』とか『此処は某が暮らしている武家屋敷だ』とか『城下町の外れの茂みで倒れていた所を俺が偶然見つけた』とか。まぁとにかく色んな事を教えてくれた。
 今でも『何だコイツ』と思っているが、これでも彼女は『咎生い』。
 魂の本質を見極めるのは専売特許で、至極簡単な事だ。もう随分前から青年の事を信用していたりする。
 だから今度は敬語を使って再戦。
「・・・お陰で、色々よく分かりました。・・・・で、貴方はどちら様ですか?」
「ん?某の事か?」
 はコクコクと首を縦に振る。
 その反応が妙に可愛く思えて、幸村は上機嫌で己が名をに告げる。
「某の名は幸村、真田源次郎幸村という。
 ・・・・む、そういえばまだ童の名前を聞いてなかったな。童の名は何というのだ?」
「?我の名は、―――」
 言いかけて、は言葉を詰まらせる。

 ――果たしてこの名を口に出すべきだろうか?

 もう自分はあの孤児院の子供でもなければ、あの世界の住人でもない。
 それなのに、そんな自分に彼女から貰ったこの名を、口にする資格があるのだろうか?

 それは、否。ありえるわけがない。

 今の自分は五年前にやり残した役目を果たしに来ただけ。それだけの為に今の今まで、咎を生む事になろうとも生き続けたのだ。
 ならば青年に名乗る名は―――、

。我の名は・・・
「そうか、というのか。なかなかに良い名だな」
 嘘は、ついていない。
 寧ろこの名は初めてつけられたもの。主から貰い受けた、誇るべき名。・・・・だがしかし、自分が語るとそれは偽りに成り下がる。

 この名は主の・・・・主の実子の名。

 その所為なのか、はたまた違う理由からなのか。幸村が嬉しそうに、自分の頭をわしゃわしゃと少し乱暴に撫でてる間中、体中が悲鳴みたいな音を立てて軋み出した。ギシギシと不愉快な音が耳に纏わり付き、毒が痛みを伴って心臓を中心に這いずり回り蠢く感覚が神経を支配していく。
 気持ちが悪い。
 自分が嫌で嫌で堪らなくなる。
 きっとこの痛みは自分が今此処に存在する事で、何処かの誰かに降り注がれたモノなのだ。
 その何処かの誰かは呪っている。自分にこんな理不尽な痛みを、罰を、咎を、罪を被せた者を。
 きっときっと、恨んでる。
 早く、早く、終わらせないと、

 ――――誰もが耐えられなくなってしまうその前に。


「如何したのだ?具合でも悪いのか?」
「!?・・・・だ、大丈夫。問題ない、です」
「そ、うか。・・・なら、良いのだが」
 幸村は何時の間にか顔面蒼白で呼吸を乱している)の様子の異変に気付く。体調について本人に尋ねてみるが、揚力の無い顔で問題ないと返されてしまった。
 自分はやはり信用されていないのか、と最初落ち込んでいた幸村だったが、暫くすると何か妙案でも思いついたのか、とても分かりやすい表情を顔中に広げていた。
「ところでよ!」
「・・・?」

「某と団子を食わぬか?」

 幸村は持参してきた大皿一杯分相当の団子の包みをの傍らに置き、その内の何本かを彼女の目の前に差し出した。
 は暫くその差し出された団子を凝視し、
「・・・・ありがとう・・・・」
 一本だけ頬張ると、彼女の表情が心持ち少し柔らいだ。
 その表情を見て幸村は満足し、自分も団子に手を伸ばした。





目次



[反省会及び座談会]

参話目です。目指せ!此処だけオールギャグ!(それでも無謀だ・・・。
今回は最初だけ佐助を出してみました。

いやぁ・・・・苦労してんのね、おかん。

ウチは基本おやつは一日一品。ぽてちだったら食べ切り用一袋(75g)が目安ですが・・・最近じゃそれでも多いね。

佐助「ウチもそんなふうに普通だったらどんなに良かった事か・・・・ホント辛いよ
幸村「何と!佐助は元気がないと申すのか?それならば某と団子を食わんか(喜」
佐助「ちょっと旦那止めてよ!そんな大量の団子を視界に入れないで!胸焼けするでしょっ!!」

(佐助逃亡。幸村団子所持で追跡)

・・・・・・えっと、次のお話はお館様も出てくる予定。
あくまで予定です。でもってキャラ違ってたら御免なさい。



(最新加筆修正:08.9.6)