そんな事 少女は望まなかった

そんな事 少女は願ったりしなかった

それは 彼らが少女を思ってやった事

それでも 少女は微笑まず

ただただ 如何してと

泣き叫ぶだけだった――――




其の六・とがおいの幸福を願う者達〜三者三様の共通点〜




「・・・玄、武・・・」
 言葉が、出なかった。
 否。言葉なぞ、出る筈もなかった。
 必死に喉から声を出そうと意識して声帯を震わせるが、何か詰め物でもされているかのように声は絶え絶えにしか発せられない。
 それでも、霞む視界の中で朧がかったように不鮮明でしかないその光景は、けれどもハッキリと、現実のモノとして鮮烈に眼球へと焼き付いて離れる事はなかった。
 自分の目の前には、地に掌と膝を着け、苛立ちを露にした双竜。
 そして、その竜達を冷たい瞳で見下ろす・・・見知った少年。


 彼――玄武は、が最後にその身に刻み付けられた四神聖獣の一角。
 『北神』の名を持つ幻想の中の幻想、強大な力を持った一つの夢幻の形。
 を守護する為だけに執着し存在する、神と同義であるモノ。
 
 ―――彼を、止めなくては

 がこの状況において最初に思考したのは、玄武を止める術。
 玄武は守護聖獣の中でも一番歳若い。故に今のような興奮状態に陥ると、子供の癇癪のように直情的な行動に出る事が多い。
 普段なら他の三匹の誰かが止めに入るのだが、―――今回は場合が異なるようだった。


 朱色に輝く無数の羽根。

 それはごとその周囲の空間を取り囲むように、不規律な動きで宙を縦横無尽に舞う。その羽根に紛れている梵字のような形の文字群の羅列が、羽根との間の境界線の役割を果たしていた。
 これは守護聖獣の『南神』、朱雀が最も得意とする重複結界。その名を『朱鞍那(しゅくらな)』といった。
 正直、今のに玄武を止める事は不可能だった。ただでさえ脱出困難な重複結界である上に、それを施したのが『浄化』と『生守』を体現する『南神』の朱雀なのだから、出口が存在する欠陥物である筈が無い。
 は真っ直ぐ、結界外に控えている―――今は真紅の髪と瞳を備えた少女に姿を変えている―――朱雀を見つめたまま、言葉を紡ぐ。
「今すぐ解いて。こんな事、望んでない」
 その眼があまりにも強く、あまりにも儚いものだったが故に
「――――知ってますよ。・・・これは、私達が望んだ事ですから」
 朱雀は、玄武は、他の二匹の守護聖獣達は、たとえ主たるが望まずとも、

「貴女は・・・幸福であるべきなんです。人間が犯した罪の咎を貴女が背負う事なんてない、必要ないんですよ」

 主の幸福の為に、人間達に制裁を加える断罪者の道を選んだのだ。


†・†・†


 ドドッ!ドドッ!ドドッ!!・・・・。
 三つの蹄が大地を蹴りつける音が城下町に響き渡る。
 先頭から幸村、信玄、伝令兵の順。
 此処に佐助の姿が見えないのは、彼だけ先に飛行術で目的地に向かっているからである。
「・・・・・・・・!」
 幸村は、自分が拾った童が普通の童とは違う事に何となく気が付いていた。だかそれは、ただ少し『変わっている』という範囲の事で、それ以外は至って『普通』の童だと思っていた。


『旦那。これは俺様の勘だから、絶対に正しいなんて言い切れない。だけど・・・この勘ばかりは外れる気がしないんだよ・・・、やんなっちゃうぐらいね。

 ――あの藍紫の子供は、きっと、只の一度も・・・救われた事が無い。そんな、諦めしかない眼をしていた――』


 あの、出立前に佐助が言っていた事を、幸村は毛ほども信じてはいなかった。
 彼を信用していない訳では無い。寧ろ、幸村は佐助ほど優秀な部下は居ないと豪語できるほど、彼の忍を信頼している。
 しかし、あの言葉だけは信じたくなかった・・・ただそれだけの事なのだ。
 あの時。団子を頬張りながら歳相応に微笑んでいた少年が、只の一度も救われた事が無いなどど、あってはならないと思ってしまったのだから仕方が無い。
 ならば、己がすべき事は決まっている。
「・・・たとえ、これまで何一つ救いが無かったとしても――」
 今日より自分が少年の『救い』になればいい。
 この先ずっと、自分が少年を守ってやればいい。

 ――そうだ。兄になろう。
 あの少年の家族になろう。

 家族や親方様達が自分を守り、愛してくれたように――――愛してやればいいんだ。





目次



[反省会]

まず初めに一言。
其の四で『咎負い』と表記したのを皆様覚えているでしょうか?今回タイトルの『とがおい』という単語の表記をひらがなにしましたが、どちらも間違いではございません。ワザとです。

玄武と朱雀、ついに始動。
そしてユッキー、お兄ちゃん宣言(笑。
誰だって一番大切なものの為だったら、何かを犠牲にしてでも守りたいって思うんじゃないかなと考えてたら、こんな感じに仕上がりました。
ちなみに幸村の言ってた『愛』は、家族愛とか兄弟愛の『愛』です。今んとこは(笑。
・・・コホン、では最後に佐助君一言どうぞ。

佐助「次は俺様や竜の旦那とかが出るから、期待しててね♪あと旦那の場合そーいう『愛』でも思考に浮かばないと俺様思うけど、どーよ?」

うん。俺もそー思います!(ダメじゃん。



(最新加筆修正:08.9.9)